大判例

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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)1401号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

被告新聞社は、某月某日の新聞各版第三面紙上に『深夜警官三百が包囲〃多摩の上海〃の手入れ、台湾人の麻藥団を検挙』なる見出で『かねてから大掛りの麻藥団のあることを内てい中の国警本部ならびに厚生省麻藥課東京都事務所では一日午後十時三十分から二日午前零時三十分までに約三百名の署員と麻藥Gメンを動員、その本拠北多摩郡昭和町築地三三「八清住宅」内東京華僑連合会三市三多摩悅来自治会を急襲、同会内医師羅秋賢(二九)ら女子三名を含む台湾人七名を麻藥取締令違反容疑で検挙するとともに麻藥を押收、さらに無職黄成台(二九)ら二名を外人登録令、ドル不法所持容疑で検挙した。調べによると畑の中にあるこの建物は〃三多摩のシヤンハイ〃といわれ、台湾人六十三世帶百六十七名が住み、纎維、麻藥などのブロカーを常習としており、附近の人々は嚴重な監視網によつて立ち入りや交渉を断たれていた。国警本部では二年越し一味の動靜を内てい、今回の検挙となつたものである』との記事を掲載し、これを日本全国に発売領布した。原告等は、右記事の中原告等に関する部分は著しく事実に反し、原告等の名誉を著しく毀損したものであるとなし、被告新聞社に対し、右不法行為に基く慰藉料として原告等各自(但し原告三市三多摩悅來自治会を除く)に金二万円を支払うべきこと並びに新聞紙上に謝罪広告をすべきことを請求した。

(判断)

原告等勝訴(但し、慰藉料の請求は原告等各自につき金二千円の限度で認容された。)

判決は、前記新聞記事中、原告三市三多摩悅来自治会を大掛りな麻藥団の本拠と認めたことは著しく誇張に失し眞実に反するものであり、また、右自治会の建物に居住する原告等及びその家族が周囲の日本人と交際を断つて日本人が八清住宅に出入するものを監視し、ひそかに麻藥等の売買を常習としていると認めたことは全然事実と反するものであることを認定した後、右の如き新聞記事の記載は、原告等の名誉を毀損した不法行為と認むべきであるとして、その理由を次の如く述べている。

「思うに、新聞は社会における強力な報道機関であつて、日々に生起する事象を正確、迅速に一般世人に傳え、以て世人を啓蒙するとともに社会文化の推進に寄与することを使命とするものであるが、この使命は新聞事業が一の私企業として経営され、互により優秀ならんとする競爭過程を通じて始めてよく達成されるものと考えられる。しかして、その競爭のあるところ、新聞の経営者が、競爭に耐えんがため、報道価値の優れた記事を他よりも迅速に掲載することに努めるとともにこれを読者に印象的に受け取らせるべくあらゆる創意工夫をこらすことは、勢の免れ難いところであるから、新聞記事が些末の点で客観的事実と嚴密に符合せず、またわ、事実に多少の潤色の跡を感ずる場合の生ずるのはことの性質上やむを得ないものと解するを相当とするけれども、今日新聞が絶大な威力を有し、一度新聞記事とならんか個人の名誉、社会的地位の如き忽ちにして葬り去られる危険の多分にあることを思えば、他人の私行に関する記事の掲載については、新聞の経営者はその記事の正確性、眞実性に格段の意を用い、その表現においても濫りに他人の名誉、社会的地位を傷つけないよう配慮する義務を有し、この義務を怠り他人の名誉を毀損するにおいては、不法行為上の責を免れ得ないものといわなければならない。(中略)(本件)記事は、連合国最高司令部の指令に基き、厚生省麻藥取締官東京都事務所が国家地方警察東京都本部その他の応援を得て、昭和二六年二月一日の深夜悅来莊を急襲し、麻藥取締令違反容疑者その他を検挙した事件について被告の記者らが右麻藥取締官、国家地方警察東京都本部、同立川地区警察署 同八王寺地区警察署等で取材したことを被告の整理部で整理してできたものであることが認められるけれども、これをその形式内容によつて順次に前記事件を掲載した産業経済新聞、夕刊毎日新聞 東京タイムス、朝日新聞、夕刊読売新聞であることを認め得る乙第一乃至第五号証の各一中の右事件の記事と対照して考えると、被告の記者らの取材は右各新聞の記者らの取材に比較して可成り安易な気持でなされ、その取材の整理、記事の表現方法に至つては著しく興味本位に行われ、その間他人の名誉というようなことには殆んど何らの注意も払われなかつたことが看取されるから被告の右記事の掲載は前説示の義務を怠つてなされたものと認める外はない。しかも、その記事が原告自治会を『大掛りな麻藥団の本拠』とし、原告らを含む悅来莊の居住者を麻藥等のブローカーを常習としておる』とし、原告らを最も忌むべき犯罪の本拠またわその犯罪の常習者とする趣旨である以上、これが原告らの名誉を毀損するものであることは論を待たないところであるから、被告は原告らに対して不法行為上の責を免れるに由ないものといわなければならない。」

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